時盛 郁子
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お寺にはためく、鮮やかなオレンジ色の幟。2022年1月、十日市町にある日蓮宗広布山本覚寺にハンバーガーの自動販売機「みょうけんバーガー」が登場しました。
販売されているのは、手のひらサイズのハンバーガー。値段は1個300~350円です。自動販売機で飲み物を買うように、24時間365日いつでも購入することができます。
ハンバーガーは冷蔵の状態で出てくるので、持ち帰って温めてから楽しみましょう。
数種類あるおみくじの中には、本覚寺の公式キャラクター「みょうけんくん」があしらわれたものも。モデルは本覚寺で祀られている、北斗七星を神格化した「開運北辰妙見大菩薩」です。
電子レンジで箱ごと約2分加熱したら、ほかほか湯気が立ちのぼるハンバーガーの出来上がり!バンズはふんわり、約2センチメートル厚さのパティはやわらかな食感。自動販売機で買ったことを忘れてしまいそうな、満足感のある味わいです。ぜひ、熱々のうちに頬張って。
自動販売機では、大判焼き(2個で300円)も販売中。ぎっしりと詰まったあんこは甘さ控えめで、デザートやおやつにもぴったりの一品です。
ただでさえ珍しいハンバーガーの自動販売機。しかもそれを、どうしてお寺に?
話題を集める「みょうけんバーガー」が設置された背景を本覚寺住職の渡部公友さんに聞きました。
――2022年1月に「みょうけんバーガー」が登場して約4か月。反響はいかがですか?
「全国で初めての取り組みなので話題になるのでは」とは思っていましたが、まさかここまで反響があるとは、と驚きました。ハンバーガーの自動販売機は全国に十数台しかなく、中四国九州ではうちが初めて設置したんです。
最初はTwitterをきっかけに人が来るようになって、テレビや新聞の取材もあって。2月頃には、1日で100個以上売れた日もありました。県外からも買いに来てくださいます。
――ハンバーガーの自動販売機を置こう、と思ったきっかけは?
ハンバーガーの自動販売機が壊され、3Dプリンターで部品を作って修復されたというニュースを見たことです。こんなものがあるんだ、と思いました。
そこからハンバーガーの自動販売機を調べていたら、長野県の「ガレージいじりや」さんが取り扱っていることが分かりました。実は問い合わせたとき、最初は在庫がないと断られたんです。でもたまたま他の契約がキャンセルになって「渡部さん、いかがですか?」って連絡をいただいて。即決でした。
――商品のラインアップについて教えてください。
今はハンバーガー、チーズバーガー、ピザバーガー、お好み焼き風、カレーチーズ、ベーコンマヨの6種類、それから大判焼きです。チーズバーガーが一番人気ですね。カレーチーズもスパイスの風味が香ばしくて、とてもおいしいですよ。
――お寺にハンバーガーの自動販売機というのはやはり異色の組み合わせですよね。「みょうけんバーガー」を始めると言ったとき、周りの方の反応はいかがでしたか?
私の個人事業ですから、家族は「別にいいんじゃない?」という感じで特段反対されることはなかったです。
ただ、「檀家さんや他の参拝者から叱られないかな」「こんなものをお寺に置いて、と思われたらどうしよう」というのは頭をよぎりました。でも蓋を開けてみると檀家さんも喜んでくださって。多くの方に「いい企画だね」と受け入れていただいています。
――運営にあたって苦労されていることはありますか?
やはり一番は在庫の補充です。最近は落ち着いてきましたが、3月くらいまでは売り切れが続出して。お寺の仕事の合間を縫って、という大変さはありますね。
あとは、賞味期限に注意しながらの在庫の調整です。なるべく売れ残りを出さないよう、気を付けています。
――「みょうけんバーガー」の売り上げは、こども食堂に寄付されていると聞きました。
はい、本覚寺を会場とする「十日市こども食堂おてらごはん」だけでなく、ひろしまこども夢財団にも寄付しています。これからも定期的に、売り上げの一部を寄付させていただこうと思っています。
――「十日市こども食堂おてらごはん」のほか、お寺で取り組まれていることはありますか?
お寺でヨガをする「テラヨガ」、お寺の掃除をした後にみんなで朝食を食べる「テンプルモーニング」、子ども向けの「夏休みお寺宿泊体験」などがあります。
ほかは「広島婚活塾」。10名ずつくらいのこぢんまりとした婚活で、すごく好評だったんです。広島県内でお寺で婚活をしているところは、ほとんどありません。
新型コロナウイルスの影響でどれも休止中ですが、落ち着いたら順次再開したいと思っています。
――いろいろなイベントがあるんですね。発案者はすべてご自身ですか?
「テラヨガ」や「テンプルモーニング」は全国的な取り組みですが、他は私です。チャンネルを増やすといろんな人がお寺に来てくださって、ご縁ができていく。これが私の狙いです。まず動かなければ出会いはないし、人と人とのつながりはできません。色々なイベントや活動でお寺自体の経営が成り立つわけではないですが、何より私自身がそのつながりを楽しんでいます。
――そのように考えるようになったターニングポイントは何かあったんでしょうか?
東日本大震災が大きかったですね。震災直後、ひとりで福島県まで行きました。被害を受けたお宅の片付けをボランティアとして手伝ったり、原発事故で立ち入りが規制されている区域があったり。人生観が変わったというか、自分がやってきたことが馬鹿らしく思えるようになってきたんです。
当時、私は副住職として、法要などお寺の決められた仕事をしていればよかったわけです。でもボランティアを終えて広島に帰ってきて、ここで何かできることはないか、と考えるようになりました。まず思い浮かんだのが、原発事故があったので、エネルギーのこと。家族に相談して、自分たちのエネルギーは自分たちでつくろうと、太陽光パネルを設置しました。その頃から「まずはアクションを起こすこと」が大事だと、強く思うようになりましたね。
それに、本覚寺は被爆している寺院です。当時の本覚寺住職とその家族、周りの檀信徒の多くが亡くなっています。そういった中で自分ができることとして、広島市立本川小学校平和資料館のボランティアガイドや、被爆体験伝承者としても活動するようになりました。
やはり今、地方の零細寺院は存亡の危機に立たされていると言われています。人口もお墓も、お寺を支えてくださる方もどんどん減っている。そういった時代に、私は何もしないわけにはいきません。人と人とのつながりを作って、ご縁を広げていく。まずは自分が動き、人の役に立つことをしていく。仏教の役目はやはり、人の苦しみや悲しみを取り除いて、心の安穏を与えていくことですからね。
そうしながら、赤ちゃんからお年寄りまで、いろいろな需要に応える体制をつくる。社会から求められているものを、お寺ならではの形で実現していく。そうしていく中で、檀家さんはもちろんですが、いろんな人に「本覚寺っていいね」「本覚寺って楽しそうだね」と思い、ファンになってもらいたいと思っています。広く浅く、いろいろな人に本覚寺を支えてもらって、こちらからは一人ひとりにあった、お寺ができることをお返ししていく。
本覚寺を支えてくださる方とギブアンドテイクの関係を構築できると嬉しいですね。
***
お寺とハンバーガーという斬新な組み合わせの根底にあったのは、「ご縁を広げたい」「本覚寺を身近に感じてもらいたい」という渡部さんの思い。こども食堂など、地域と繋がる取り組みにも注目です。
お寺への入り口がさまざまな形で開かれている本覚寺を、ぜひ訪ねてみてくださいね。
日蓮宗 広布山 本覚寺
広島市中区十日市町1-4-10
TEL 050-3717-7620
ホームページ https://hongakuji.org/
Twitter @hbn7620
※みょうけんバーガーの販売状況はTwitterでご確認ください。
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