【寅卯演劇部】土橋から生まれた座組が2022年秋、完結…!?

インタビュー
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みくりゃん

ライター・エッセイスト。好きなもの先に食べる派。

お久しぶりです!「きみ知ら」ライターのみくりや佐代子です!

妊娠・出産を経て帰ってきたぞ~~~!

睡眠。

 

1年間の休業中に観た舞台のDVD。「舞台ってすごい!生で観劇したい!」と興奮しながら「舞台 広島」で検索している時に、「寅卯演劇部」の名を見つけました。

 

寅卯演劇部

聞くところによると、我らが土橋・十日市エリアから生まれた演劇グループとのこと。

これは取材と称して潜入(!)するしかない。そう思い立った私は、寅卯演劇部の脚本・演出を担当する上岡久美子さんにお話を伺いに向かいました。

 

上岡久美子(うえおか・くみこ) 広島県在住の劇作家、演出家。行きつけの立ち呑み屋にて寅卯演劇部を立ち上げる。自らもキャスト出演多数。代表作に「天と地のまなか」(劇作家協会編『優秀新人戯曲集2022』収録作品)。

 

ちなみに、上岡さんとお話したのは十日市に2022年5月にオープンした「キッチンきゅうこん」。店内もオシャレで居心地◎でした。

 

寅卯演劇部って?

 

――上岡さん、本日は取材を受けてくださり本当にありがとうございます。早速なのですが、寅卯演劇部とは一体…?というところからお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

寅卯演劇部は土橋・十日市エリアにある立ち飲み屋「串カツ寅卯」にて生まれた演劇グループです。本格的に活動を始めてからはまだ4年。今年の11月に上演される「私の戦争」が第4回公演になります。

 

――寅卯演劇部の立ち上げはどのような形だったのでしょうか。

 

発足のきっかけは立ち飲み屋の寅卯で「忘年会で出し物をしてほしい」と言われたのがきっかけでした。寅卯には山岳部やゴルフ部などラフで小さなコミュニティがあり、演劇部のそのような軽~いノリで誕生しました。ちなみに最初に書いたのはコントでした。観客は店内で40人ほどの常連さんですが、結構ウケて。これはイケるのかな?という感触を得ましたね。「劇団を大きくしたい」という大それた想いは特になくて相方の関西人リーマンが「またやりたい」と言ってくれたのが嬉しくて彼を笑わせたいという思いでコントを書いてました。

 

どんな人が活動しているの?

 

――寅卯演劇部にはどのような方々が所属されていますか?

 

主役を張るような役者もいれば舞台未経験者もいるし、オーディションで出会った方もいるしで……さまざまです。そもそも正確な人数すら把握してないんですよ。一度でも寅卯演劇部に関わってくれたら「部員」ですから(笑)。その一方で、「うちの所属の役者です!」と縛るつもりはない。現に他の舞台に立つ役者も多いです。どんどん旅立ってほしいと応援しています。

 

――舞台未経験の方も!

 

未経験の人を舞台にあげるのは抵抗ないし、逆に「絶対に舞台にあげちゃる」というガッツがわいてきます。未経験だけど「やりたい」という思いの受け皿になりたいですね。自分もそのように始めたし、ビギナーの入口になればと思っています。

 

過去の舞台の写真は劇団Facebookから頂戴しました

 

劇作家・上岡久美子さんに迫る

 

――始めはコントを書かれ、その後も脚本を書かれたりとのことですが、上岡さんの物書きとしてのスタートはどのような経緯だったのでしょう。

 

海外で働いたり、30代半ばで大学に行き直したりといろんなことやってきて、45歳の時に地元広島に帰りました。すぐに就職できたんですけど、リストラに遭って会社から追い出されたんです。いろんな意味で熱い夏だったんですが、お先真っ暗で今後どうしようと悶々としていたら、ふと「やったことないことやりたいな」と思い立ちました。その時、なぜか「女優やったことないな」と思ったという(笑)

ちょうど募集していたアステールプラザで行われていた演劇学校に入ることに。俳優コースと劇作家コースでさんざん悩んで、若い頃、小説を書いていたり、記者やライターとして仕事していたりしたので、やりやすそうな劇作家コースを選んで演劇の門を叩きました。

 

――すごい!新たな世界に飛び込まれたのですね。

 

演劇は、何十年も携わっている方が多くいらっしゃいます。そんな中、もう若くない年齢で知識ゼロ・人脈ゼロで始めたものですから、横のつながりもないですし……。だから演劇学校で出会った仲間達は、その時からずっと自分にとって大切な存在です。

 

――上岡さんの活動のエンジンとなっているのはどのような思いですか?

 

演劇をやっているというより、社会活動の一貫として取り組んでいます。一つは、演劇をしたい人たちに「場」を提供できたらいいなあ、と思って公演を企画しています。大人が集まってわいわい粘土をこねて舞台を作るような。まさにオトナの部活ですね。

もう一つは、演劇を通して社会的なメッセージを発するということです。コミカルな作品や人情劇など演劇はいろいろな種類がありますが、私は戦争や平和、ジェンダーや差別や偏見に苦しむ人々など割と重たいテーマの戯曲を作ってきました。物語を通して、演じる役者や観客の方々にその意味を考えてもらいたいという思いで舞台を作っています。

 


第2回公演「夜を照らす人」。広島市文化財団文化活動助成事業として支援を受け上演に至った。

人間関係の構築も舞台づくりの一環

 

――部員の方々とは良い関係性のようですが、多くの人をまとめる上で気を付けていることはありますか?

 

まとまってないですね(笑)自分、自由な魂なので人まとめる力ないかも(笑)自分ポンコツなので人まとめる力ありません!さいわいなことに周りにいる人がとてもしっかりしていて、知らない間にいろんなことが進んでます。「上岡久美子の戯曲を舞台化する」という思いが強い人たちに支えられ、本当に恵まれているとありがたく思っております。

正直言うと、以前は「作品」と「人」なら「作品」をとっていた(優先していた)時期もありました。自分はキャパが少ないので本番近くなると焦り、かなりピリピリしてその緊張が周囲に伝わり、雰囲気が堅くなることもありました。それを禁欲的と勘違いしてた時期もあったんだけれどやっぱり大切なのは「人」だと気づきましたね。演劇は人間が絡まないと成立しない。人を大切にしないといい芝居はあり得ないということにやっと気づきました。

 

――「人」を大切にするという姿勢に共感します。今、演劇界や映画界でのハラスメントが問題となっていますしね……。

 

寅卯演劇部は、主要な部員と私が演劇学校の同期だったこともあり、年齢は違えどフラットな関係です。私のことを「久美ちゃん」と呼んでいる役者も少なくありません。

 

ただし、自分が権力者であるという自覚は常に持つようにしています。というのも、私が脚本や演出を担っていて作品に大きな影響を与えるのですから、こちらがいくらフラットな関係だと思っていても相手を無意識のうちに振り回してしまえるという危険性があるのです。ハラスメントは無自覚が引き起こすことが多い。だから「慎重にならないと」とたびたびハッとします。「さっきは言い方が雑だった。ごめん」と謝ることもあります。自分は権力者であるという自覚なしに、自分を律することは難しいですから。

 


第3回公演「天と地のまなか」。脚本は劇作家協会新人戯曲賞の最終候補6作品に選ばれ、書籍「優秀新人戯曲集2022」に収録された。

 

第四回公演「私の戦争」が11月上演決定!

 

――次回作「私の戦争」も近づいてまいりましたが、この作品のテーマはどのようなものでしょう?

 

まず、戦争の対義語である平和の定義について注目しました。平和学で有名なガルトゥングによりますと「平和=戦争がない状態」だと思われがちですが、それは「消極的な平和」状態であって、貧困や差別など構造的暴力のない社会が本当の意味での平和であり、これが「積極的平和」であって、我々はここを目指すべきだと。

 

と考えると、今私達の立っているこの世界は本当に「平和」なのか?誰かにとっては戦争状態、「戦場」ではないか?そういうことについて考えてもらいたくて今回の作品づくりがスタートしました。

 

――今回もメッセージ性の強い作品になりそうですね。

 

この作品に限ったことではなく、執筆する時にいつも思うのが「書くことは覚悟が要る」と。何か社会的な問題を書く場合、それにより誰かを傷つけてしまうかもしれない。人から嫌われてしまうかもしれない。それでもその社会の不平等を訴えるギリギリのラインを書くことで、人の心に響く作品が生まれることがある。私はそのギリギリを狙いたいですね。

実は、今回が寅卯演劇部として最後の公演となります。7月に母が亡くなり、生と死を生々しく考える日々を過ごしました。破壊と創造と言えばかっこいいですが、一度、リセットして自分が何をどういうスピードでどのタイミングでやりたいか、ということを独り見つめなおしてみたいと考えました。
だから、「私の戦争」は寅卯演劇部として最後の作品となりますので、観客の皆さんと一体になって思いっきり舞台を楽しみたいと思います!ぜひ最後の寅卯演劇部公演をその目に焼き付けてください!!ご来場をお待ちしております!

 

――上岡さんの「覚悟」が込められた挑戦的な作品、私も絶対に観劇します!

 

土橋には愛にまみれた「オトナの部活」があった

十日市・土橋エリア発の演劇グループ「寅卯演劇部」。精力的な活動の裏には、包容力のある作家さんと社会問題への強い思いがありました。その思いを表現するために、さまざまなバックグラウンドの役者や舞台スタッフの方々が一丸となって取り組む。まさに「オトナの部活」です!

 

不自由な世の中を諦めるのか、それとも疑問を投げ続けるのか。一見平和に見える私達の日常では、そのどちらを選択するかによって見える世界が変わっていくような気がします。

 

寅卯演劇部の舞台から「覚悟」のメッセージをキャッチしてみませんか?

第四回公演「私の戦争」、注目です。

 

 

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